企業のデータ分析のニーズが高まる中、大量のデータを効率的に集計・分析する手法として OLAP(Online Analytical Processing) が注目されています。
Microsoftの SQL Server Analysis Services(SSAS) は、OLAPキューブを活用したデータ分析のための強力なツールです。
本記事では、SSASを使用してOLAPキューブを設計し、クエリ言語 MDX(Multidimensional Expressions) を使ってデータを取得する方法について詳しく解説します。
SQL Server Analysis Services (SSAS)とは?
SQL Server Analysis Services (SSAS) は、Microsoft SQL Server に統合された分析サービスの一つで、主に以下の2つの機能を提供します。
- OLAP (Online Analytical Processing) 機能:多次元データの分析を可能にする。
- データマイニング機能:機械学習的なアプローチでデータを分析し、パターンを抽出し、予測を行う。
OLAPとデータキューブの基本概念
OLAPとは?
OLAP(Online Analytical Processing)は、多次元データの集計や分析を高速に行うための手法です。
OLAPの主な特徴は以下の通りです。
- 多次元分析:データを複数の視点(例:時間・地域・製品)で分析可能
- 高速な集計:データキューブにより事前に計算された集計結果を利用
- 柔軟なクエリ:ビジネスインテリジェンス(BI)ツールと連携し、動的に分析可能
データキューブとは?
データキューブ(OLAPキューブ)は、OLAPシステムで利用されるデータモデルで、複数の ディメンション(次元) と メジャー(指標) を持ちます。
- ディメンション(Dimensions): データを分類するための軸(例:日付、地域、製品カテゴリ)
- メジャー(Measures): 数値データ(例:売上、利益、注文数)
SQL Server Analysis Services (SSAS) の基本
SSASの種類
SSASには、2つの主要なモードがあります。
- Multidimensional Mode(多次元モード)
- OLAPキューブを作成し、MDXを使用してクエリを実行
- Tabular Mode(表形式モード)
- 列指向のデータストレージを使用し、DAX(Data Analysis Expressions)でクエリ
本記事では、多次元モード(OLAPキューブ)を扱います。
SSASの基本的なアーキテクチャ
SSASは以下のコンポーネントで構成されています。
- データソース(Data Source):SQL Serverやその他のデータベースからデータを取得
- データソースビュー(Data Source View):データのスキーマを定義
- ディメンション(Dimension):OLAP分析の軸となるデータ
- キューブ(Cube):集計データを格納し、MDXクエリでアクセス可能
OLAPキューブの設計
データモデルの定義
OLAPキューブを設計する際、データモデルを定義する必要があります。以下の例では 売上分析 を目的としたデータモデルを考えます。
- ディメンション
- Time(時間)
- Product(製品)
- Region(地域)
- メジャー
- SalesAmount(売上金額)
- OrderCount(注文数)
SSASでのキューブ作成手順
- SQL Server Data Tools (SSDT) を開く
- 新しい SSAS プロジェクトを作成
- データソースを設定(SQL Server のデータベースを指定)
- データソースビューを作成(テーブルの関連付け)
- ディメンションを定義(時間・製品・地域)
- メジャーを追加(売上金額・注文数)
- キューブを処理しデプロイ
MDXによるOLAPキューブのクエリ
MDXの基本構文
MDX(Multidimensional Expressions)は、OLAPキューブのデータを取得するためのクエリ言語です。
基本的なMDXクエリ
SELECT
{ [Measures].[SalesAmount], [Measures].[OrderCount] } ON COLUMNS,
{ [Time].[2024], [Time].[2023] } ON ROWS
FROM [SalesCube]
WHERE [Region].[Japan]
このクエリは、日本の SalesCube から 2023年と2024年の売上金額と注文数を取得します。
よく使うMDX関数
MDX関数 | 説明 | 使用例 |
---|---|---|
SUM() | 合計を計算 | SUM([Time].[All], [Measures].[SalesAmount]) |
AVG() | 平均を計算 | AVG([Time].[All], [Measures].[SalesAmount]) |
TOPCOUNT() | 上位N件を取得 | TOPCOUNT([Product].[All], 5, [Measures].[SalesAmount]) |
演習問題と解答例
演習問題1
以下の条件に合致するMDXクエリを作成してください。
- キューブ SalesCube からデータを取得
- 列に SalesAmount と OrderCount を表示
- 行に 2023年 と 2024年 のデータを表示
- Product の Laptop のデータに限定
解答例
SELECT
{ [Measures].[SalesAmount], [Measures].[OrderCount] } ON COLUMNS,
{ [Time].[2024], [Time].[2023] } ON ROWS
FROM [SalesCube]
WHERE [Product].[Laptop]
演習問題2
SalesCube から 地域ごとの売上トップ3 を取得するMDXクエリを作成してください。
解答例
SELECT
{ [Measures].[SalesAmount] } ON COLUMNS,
TOPCOUNT([Region].[All].Children, 3, [Measures].[SalesAmount]) ON ROWS
FROM [SalesCube]
まとめ
- SSASを使用すると、OLAPキューブを設計し、多次元データを分析できる
- MDXを使うことで、柔軟なクエリを記述し、高速な分析が可能
- 実際のビジネスデータをモデル化し、適切なディメンションとメジャーを定義することが重要
SSASを活用すれば、SQL Serverでのデータ分析の幅が広がります。ぜひ実践してみてください!