SQL Serverの高可用性と冗長化クラスタリング設定:フェイルオーバークラスタリングの構成と運用

ビジネスシステムにおいて、データベースの可用性は極めて重要です。SQL Serverの高可用性(High Availability, HA)を確保する手法の一つとして、フェイルオーバークラスタリング(Failover Clustering) が挙げられます。

本記事では、SQL Serverのフェイルオーバークラスタリングについて、構成方法と運用のポイントを詳しく解説します。


クラスタリングとは?

クラスタリング(Clustering)とは、複数のサーバー(ノード)を連携させ、一つのシステムとして動作させる技術のことです。

これにより、高可用性(HA: High Availability)負荷分散(Load Balancing)スケーラビリティ(Scalability) を向上させることができます。


クラスタリングの主な目的

クラスタリングには、主に以下の目的があります。

  1. 高可用性(HA):
    • 一つのノードが故障しても、他のノードが処理を引き継ぎ、システムを継続させる(フェイルオーバー)。
    • 例: SQL Serverのフェイルオーバークラスタリング
  2. 負荷分散(Load Balancing):
    • 複数のノードにトラフィックを分散し、システム全体の負荷を均等にする。
    • 例: Webサーバーのロードバランサー(Nginx, AWS ELBなど)
  3. スケーラビリティ(拡張性):
    • システムの処理能力を向上させるために、必要に応じてノードを追加できる。
    • 例: Kubernetesによるコンテナオーケストレーション

クラスタリングの種類

クラスタリングにはいくつかの種類があります。

フェイルオーバークラスタリング(Failover Clustering)

  • 目的: 高可用性(HA)の確保
  • 仕組み: 一つのノードが故障すると、別のノードが自動的に処理を引き継ぐ(フェイルオーバー)
  • 使用例: SQL Serverのフェイルオーバークラスタリング(FCI)

負荷分散クラスタリング(Load Balancing Clustering)

  • 目的: システムの負荷を分散し、パフォーマンスを向上
  • 仕組み: ロードバランサーがトラフィックを複数のノードに振り分ける
  • 使用例: Webサーバークラスタ(Nginx, AWS ELB)

並列クラスタリング(Parallel Clustering)

  • 目的: 複数のノードが同時に処理を実行し、高速なデータ処理を実現
  • 仕組み: データベースのクエリ処理などを複数のノードで分散処理する
  • 使用例: HPC(高性能コンピューティング)、ビッグデータ処理

ストレージクラスタリング(Storage Clustering)

  • 目的: ストレージの可用性向上と分散管理
  • 仕組み: 複数のノードで一元管理されたストレージを提供する
  • 使用例: SAN(Storage Area Network)、Ceph

クラスタリングのメリットとデメリット

メリット

  • 高可用性: 障害発生時にシステムが継続稼働できる
  • パフォーマンス向上: 負荷分散によりシステムの応答時間を改善
  • 拡張性: 必要に応じてサーバーを追加しやすい

デメリット

  • コストが高い: 追加のハードウェアやライセンスが必要
  • 管理の複雑さ: 設定や運用に高度な知識が求められる
  • ネットワーク負荷: クラスタ内の通信が増えるため、最適化が必要

フェイルオーバークラスタリングとは?

フェイルオーバークラスタリングとは、複数のノード(サーバー)をクラスタリングし、一方のノードに障害が発生した場合に自動的に別のノードへ処理を引き継ぐ仕組みです。

これにより、システムのダウンタイムを最小限に抑え、可用性を向上させることができます。

フェイルオーバークラスタリングの特徴

  • 高可用性の向上:障害発生時に自動でフェイルオーバー
  • データの一貫性保持:共有ストレージを使用し、一元管理
  • 管理の簡素化:Windows Serverの管理ツールでクラスタリング可能

主な用途

  • 基幹業務システム(ERP、CRMなど)
  • 大規模なトランザクション処理を行うデータベース
  • 金融・医療システムなどのミッションクリティカルな環境

フェイルオーバークラスタリングの構成

必要なコンポーネント

SQL Serverのフェイルオーバークラスタリングを構成するためには、以下のコンポーネントが必要です。

コンポーネント説明
クラスターノード最低2台のWindows Server
共有ストレージiSCSIやSANなどの共有ディスク
クラスターネットワークフェイルオーバー用の専用ネットワーク
Windows Server Failover Clustering (WSFC)Windows標準のクラスタリング機能
SQL Serverのクラスタリング対応エディションSQL Server Standard以上(Enterprise推奨)

クラスタリングの手順

手順1: Windows Server Failover Clustering (WSFC) のインストール

①各ノードにWindows Serverをインストールする。

②[サーバーマネージャー] → [機能の追加] から「フェイルオーバークラスタリング」を有効化にする。

③PowerShellでクラスタリング機能を有効化にする。

# PowerShell
Install-WindowsFeature -Name Failover-Clustering -IncludeManagementTools

④クラスタリングサービスを開始する。

# PowerShell
Start-Service ClusSvc

⑤WSFCの構成ウィザードを実行し、クラスタを作成する。

# PowerShell
New-Cluster -Name SQLCluster -Node Node1, Node2 -StaticAddress 192.168.1.100

手順2: 共有ストレージの設定

①iSCSIまたはSANのストレージを構成

②クラスターノードからストレージをマウント

③クラスターディスクとして構成

# PowerShell
Get-ClusterAvailableDisk | Add-ClusterDisk

手順3: SQL Serverのクラスタリングインストール

  1. SQL Serverインストーラーを起動し、「フェイルオーバークラスタインスタンス (FCI)」 を選択
  2. クラスターノードを指定し、共有ストレージを選択
  3. クラスターネットワーク設定を行い、インストールを完了

クラスタリングの実践例

SQL Server フェイルオーバークラスタリング

  • 用途: 企業の基幹データベースシステム
  • 構成:
    • クラスターノード(2台以上)
    • 共有ストレージ(SAN, iSCSI)
    • Windows Server Failover Clustering(WSFC)
  • 仕組み:
    • Node1がアクティブな状態でSQL Serverが稼働
    • Node1が障害を検知すると、Node2にフェイルオーバー
    • システムダウンを防ぎ、可用性を維持

Webサーバーの負荷分散クラスタ

  • 用途: 高トラフィックのWebサービス(ECサイト、SNS)
  • 構成:
    • 複数のWebサーバー(Apache, Nginx)
    • ロードバランサー(AWS ELB, HAProxy)
  • 仕組み:
    • ユーザーからのリクエストをロードバランサーが複数のWebサーバーに分散
    • サーバーの負荷を均等化し、レスポンス速度を向上

フェイルオーバークラスタの運用

フェイルオーバーのテスト

クラスタが正常に機能することを確認するために、手動でフェイルオーバーを試行します。

# PowerShell
Move-ClusterGroup -Name "SQL Server" -Node Node2

このコマンドを実行後、SQL ServerのクラスタがNode1からNode2に切り替わることを確認してください。

監視とログ管理

フェイルオーバークラスタの運用では、定期的な監視が重要です。

項目監視ツール
クラスターノードの状態Windows Event Viewer, PowerShell
フェイルオーバー履歴Failover Cluster Manager
SQL ServerのエラーログSQL Server Management Studio (SSMS)

障害発生時の対応

  1. クラスターマネージャーで障害ノードの確認
  2. ログを調査し、原因を特定
  3. 障害が解決しない場合はノードの復旧作業を実施

演習問題と解答例

演習問題

  1. フェイルオーバークラスタリングの主な利点を3つ挙げてください。
  2. Windows Server上でクラスタリング機能を有効化するPowerShellコマンドを記述してください。
  3. フェイルオーバーを手動で実行するPowerShellコマンドを記述してください。
  4. フェイルオーバークラスタを構成する際に必要なコンポーネントを4つ挙げてください。

解答例

  1. フェイルオーバークラスタリングの利点
    • 高可用性の確保(ダウンタイムの削減)
    • データの一貫性を維持
    • システムの負荷分散と運用管理の効率化
  2. クラスタリング機能の有効化
    # PowerShell
    Install-WindowsFeature -Name Failover-Clustering -IncludeManagementTools
  3. 手動フェイルオーバー
    # PowerShell
    Move-ClusterGroup -Name "SQL Server" -Node Node2
  4. 必要なコンポーネント
    • クラスターノード(Windows Server)
    • 共有ストレージ(iSCSI, SAN)
    • クラスターネットワーク
    • Windows Server Failover Clustering(WSFC)

まとめ

クラスタリングは、高可用性、負荷分散、スケーラビリティ を実現するための重要な技術です。特に、SQL Serverのようなミッションクリティカルなシステムでは、フェイルオーバークラスタリングを活用することで障害時のリスクを最小限に抑えることができます。

SQL Serverのフェイルオーバークラスタリングは、システムの可用性を向上させる強力な手段です。適切な設定と運用を行うことで、障害時の影響を最小限に抑え、安定したシステムを維持することができます。

クラスタリングを導入する際は、運用管理のコストシステム要件を考慮し、最適な方式を選択することが重要です。

演習問題を解くことで、実践的な理解を深め、実際のシステム構築に役立ててください。